<第51号>命を守って、所得を増やす政治

知事選挙から1か月が経ちました。

今回の沖縄県知事選挙を、私は単なる政権交代として捉えるのではなく、なぜ8年間県政を担ってきた玉城デニー氏を支持していた有権者の投票行動が、これほどまでに大きく変化したのかという点に注目しています。

2022年の県知事選挙では、玉城氏が33万9767票、佐喜眞淳氏が27万4844票、私が5万3677票を獲得した。今回、古謝玄太氏は42万3124票を獲得し、玉城氏は27万6060票にとどまりました。

出口調査では、前回玉城氏に投票した有権者の約3割が、今回、古謝氏に投票したほか、前回、下地幹郎に投票した有権者の約9割が、古謝氏に投票したというのが出口調査の結果です。

つまり、玉城氏から古謝氏へ移ったと推計される約10万票と、下地幹郎の票から古謝氏へ移ったと推計される約4万5000票、合わせて約14万5000票が、前回の佐喜眞氏の27万4844票に上乗せされ、古謝氏の42万票という得票につながったと考えられます。

一方、玉城氏については、前回の支持層から約10万票が離れたものの、新たに約4万票を獲得したことで、最終的に27万票余りになったと考えられます。

ここで私が言いたいのは、前回、玉城氏に投票した有権者の約3割が古謝氏に回ったという、これまでの沖縄の知事選挙では考えられなかったような投票行動が起きたということです。

また、前回、下地幹郎に投票した有権者の約9割が古謝氏に回ったという調査結果も、異例の結果だと言わざるを得ません。

なぜなら、前々回の知事選挙で、私が立候補を断念して佐喜眞氏を支持した際には、下地幹郎の支持層の約4割しか佐喜眞氏に回らなかったからです。

そのことから考えても、今回の約9割という数字は、異例なのです。

なぜ、これまで玉城氏を支持してきた人々が、古謝氏へと投票先を変えたのでしょうか。

私は、その最大の理由が「所得」にあると考えています。

選挙期間中、「玉城不況」という批判が広がりました。

しかし、沖縄経済は決して不況のどん底にあったわけではありません。

国の沖縄振興予算がこの10年間で約1000億円削減される中でも、観光需要は回復し、ホテル建設などへの民間投資は拡大しました。

沖縄県が公表した2023年度の企業所得は、前年度比24.0%増加しています。

それにもかかわらず、「玉城不況」という批判が広がったのは、民間投資の拡大に対して、玉城県政の政策的な貢献がなかったことが大きな要因ではないでしょうか。

そして、さらに重要なのは、企業所得が24.0%増加した一方で、県民雇用者報酬の伸びはわずか2.0%だったという事実です。

沖縄経済は成長しても、県民一人ひとりの所得は十分に増えていなかったのです。

大型投資の恩恵を受ける大企業と、物価高に苦しむ中小零細企業。

沖縄経済は二分化し、その結果として所得格差も広がっているのではないでしょうか。

これまで玉城氏を支持してきた人々の中にも、所得が増えず、生活が厳しくなった人々が数多くいたはずです。

私は、今回の約10万票の移動を、玉城県政に対する「10万人の反乱」と捉えています。

今回、古謝氏が掲げた「所得2倍」という目標は、そうした県民の心に強く響いたのでしょう。

月収20万円の人にとって、所得2倍という言葉は、月収40万円になる未来を想像させます。

しかし、県民が本当に求めているのは、統計上の所得ではありません。

税金や社会保険料を差し引いた「手取り」が増え、生活が豊かになることです。

古謝県政には、この期待を具体的な成果につなげる責任があります。

私は、沖縄の中小零細企業を経済政策のど真ん中に据え、地元企業の売上高を伸ばし、そこで働く人々の所得を増やすことが必要だと考えています。

それこそが「沖縄ファースト」の経済政策であり、県民一人ひとりの暮らしを豊かにする「ヒューマンプロジェクト」なのです。

一方で、沖縄政治には、所得の問題と同じくらい重要な課題があります。

それは、県民の命と尊厳を守ることです。

10月、在沖米海兵隊員が沖縄の女性を殺害した疑いで逮捕される事件が起きました。

亡くなられた女性の無念、ご遺族の悲しみを思うと言葉もありません。

心から哀悼の意を表します。

沖縄では、米軍関係者による重大事件が繰り返されてきました。

そのたびに米軍は「綱紀粛正」「再発防止」「教育の徹底」を約束してきました。

しかし、事件はなくなっていません。

今回、古謝知事も米軍に抗議し、再発防止を求めました。

しかし、それは玉城前知事も歴代知事も繰り返してきた対応です。

同じ対応を繰り返すだけで、本当に県民の命を守れるのでしょうか。

知事が代わったのであれば、対応も変えなければなりません。

私は、在沖米軍の四軍調整官を更迭し、組織のトップに明確な責任を取らせるべきだと考えています。

これは個人の犯罪について指揮官に刑事責任を負わせるということではありません。

再発防止を約束しながら事件を防げなかった組織の、指揮・監督上の責任を問うということです。

日本政府も、米軍に再発防止を申し入れるだけで責任を果たしたことにしてはなりません。

日米地位協定を含め、県民の命を守るための制度を見直す必要があります。

今回の選挙では、物価高と所得格差によって深刻化した生活の問題が、基地問題を上回る判断材料になったと私は考えています。

しかし、所得がどれほど増えても、県民の命が奪われる事件が繰り返されれば、県民の心は再び大きく変わるでしょう。

沖縄政治は、もはや「基地か経済か」という対立を超えなければなりません。

県民の命を守り、尊厳を守り、そのうえで所得を増やしていく。

それこそが、本当に豊かな沖縄を実現するための方程式です。

私は、今回の知事選挙を、沖縄政治が新しい時代へと進む大きな転換点にしなければならないと考えています。

株式会社 沖縄ファースト政策研究所
所長    下地 幹郎