<第18号>衝突を望まない強さ=尖閣の現場が示す日本の国家哲学=

第十一管区海上保安本部の坂本誠志郎本部長は、最近のインタビューにおいて、中国海警局船の尖閣諸島周辺での航行について「常態化しており、極めて深刻な事態だ」との認識を示しました。

現場を預かる最高責任者のこの発言は、極めて率直で、重いものです。

また、本部長は同時に、海上保安庁の巡視船の重装備化や、いわゆる強硬対応について「中国側の行動を一層激化させるきっかけを与え、尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持管理にはつながらない」とも指摘しています。

現場では、巡視船が中国側と日々緊張した対峙を続けており、まさに「つばぜり合い」とも言える厳しい状況が常態化している中で、相手を過度に刺激することなく、冷静かつ的確に領海警備を行うという姿勢は、決して弱腰などではなく、むしろ高度な抑制と覚悟に裏打ちされた強さなのです。

この考え方は、現場の実感として、「『目には目を、歯には歯を』という短絡的な対応は、安定した安全保障環境を生み出さない」ことを示しています。

その意味で、石垣市が条例を制定し、尖閣諸島への上陸を可能にしようとする動きは、たとえ国内向けには強い姿勢を示すものであったとしても、結果的には中国側を刺激し、現場の緊張を高める要因となりかねません。

安定した日中関係、そして尖閣諸島周辺の平穏な管理を目指すのであれば、刺激的な行動ではなく、長期的な国家戦略に基づく冷静な判断が求められます。

また、高市総理による、台湾有事をめぐる「存立危機事態」への言及は、日本の安全保障政策として踏み込んだ発言であり、中国側を強く刺激したことは否定できません。

その結果、日中間の経済環境や外交関係が一層厳しさを増している現実を、私たちは直視すべきです。

国家間関係は、発言や行動のわずかなバランスの崩れによって、急激に悪化することがあります。

だからこそ、やり過ぎず、踏み込み過ぎず、語り過ぎないという慎重さが、今の日本には不可欠なのです。

こうした中で、坂本本部長の「現場では厳しく対応するが、決して衝突を望まない」という姿勢は、中国側に対しても明確なメッセージを発したのではないでしょうか。

すなわち、日本は主権を守る意思と能力を持ちつつも、無用な対立や軍事的衝突を求めてはいない。

この考え方こそ、日本の安全保障と外交の根本哲学でなければならないのです。

現在、アメリカは「力による平和の構築」という考え方のもと、ベネズエラ、キューバ、イランなどに対して強硬な軍事行動を展開しています。

これまでの国際社会やアメリカ自身が取ってきた外交・安全保障のあり方とは明らかに異なる局面に入っていると言えるでしょう。

しかし、日本はそのような手法を選択できる国家ではないし、またアメリカを後ろ盾にすれば同じ行動が許されるわけでもありません。

むしろ、日本が進むべき道は、坂本本部長の姿勢に象徴されるように、抑制と理性を備えた強さを国家全体の外交哲学として確立することです。

中国が現在のような強硬姿勢を取るようになった背景には、日本という国家が相対的に力を失い、中国を国際秩序の中で抑制・誘導する存在でなくなったという現実があります。

かつてのように日本がアジアの主要なリーダーであった時代であれば、中国に対しても国際社会の一員としての責任ある行動を求める影響力を持ち得たはずです。

日中関係の悪化を、力による対抗や感情的な対立によって解決しようとするのは誤りで、日本がなすべきは、経済力、国力、外交力を総合的に高め、中国を「包み込む」だけの存在感を取り戻すことです。

アメリカに依存すればするほど、日本は主体性を失い、世界からの信頼も低下する。

今こそ、日本自身の力で経済・外交・安全保障を立て直し、世界から尊敬される強い国家となることによってこそ、中国との関係改善への道は開かれるのです。

株式会社 沖縄ファースト政策研究所
所長    下地 幹郎