<第1号>オリオンビールはどこへ行く?
オリオンビールは8月21日、東証プライム市場に上場することを発表しました。
その際に提出された目論見書を検証し、私の見解をまとめさせていただきました。
オリオンビール株式会社は、沖縄県産の酒類を製造する会社で、沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律第80条第1項第1号に基づき、沖縄県の区域における一般消費者の生活及び産業経済に及ぼす影響を考慮して、昭和47年(1972年)に酒税軽減措置が適用され、以後5年おきに同措置が延長されてきました。
オリオンビールが酒税軽減措置を受けてきたのには、沖縄県経済において最も弱い製造業のリーディングカンパニーとしての役割を担ってほしいという政治判断がありました。
復帰から今日まで53年にわたって、オリオンビールが酒税軽減措置によって軽減された酒税総額は900億円に達しています。
この酒税軽減措置がなければ、オリオンビールの安定した経営基盤は確立されていなかったと言っても過言ではありません。
酒税軽減措置によって生み出された財源はビール事業での設備投資だけでなく、ビール事業以外のあらゆる事業(ホテル・レンタカー・不動産業など)への投資を可能にしました。
酒税特別措置を53年間受け続けたことで、内部留保を厚くすることができたからです。
2019年3月、野村キャピタル・パートナーズ株式会社とカーライル・グループが、オリオンビールを買収いたしました。
当初は、カーライルがオリオンビールの買収を提案、株式の取得を試みましたが、これに対抗するために野村キャピタルがカーライルへの対抗的買収提案を行いました。
野村キャピタルはオリオンビールを地元企業として残すことを提案し、激しい買収合戦が行われましたが、オリオンビールの大株主であったアサヒビール・幸商事・個人筆頭株主がカーライルへの売却を決めたことで、野村キャピタルは所期の目的を果たせなくなり、逆に共同パートナーとして買収を行うこととなりました。
実際の買収の枠組みについては、「野村キャピタルによって運営・管理されている『NCAP ファンド』(51.0%)」と「カーライルの関連投資ファンド『CJP MC Holdings, L.P.』(49.0%)」を株主とするオーシャン・ホールディングス株式会社が、オリオンビールの株を92.75%保有しました。
それによって、オリオンビールはオーシャン・ホールディングスの子会社となったのです。
株の買付総額は「550億円~570億円規模」だと言われていますが、正確な買収額は公表されていません。
なお、買収資金のうち約370億円は借入で調達し、200億円は野村キャピタルやカーライル等が自己資金で調達しています。
「新規上場申請のための有価証券報告書」を確認すると、2021年3月期末時点のオリオンビールの総資産は641億5,000万円でありますが、純資産額576億5,900万円で、無借金経営と言えるほど財務は健全でありました。
酒税軽減措置によって毎年25億円規模の酒税が軽減されていたことが、この無借金経営につながっていることは間違いありません。
さらに、2022年3月期から2025年3月期までの当期純利益の累計額は176億5,200万円で、株主への配当をせず、自己株式の取得もしなければ、純資産は753億1,100万円となっていたはずであります。
しかしながら、目論見書によると、2025年3月期末の純資産額は110億5,000万円と大幅に減少しており、同期間で642億6,100万円の資本の減少があったということであります。
つまり、この642億円はすべてオーシャン・ホールディングスに払い出され、自己資本比率は89.9%から24.2%にまで低下したのです。
目論見書を見ると、この時点でカーライルと野村キャピタルは投資金額570億円を回収したということになります。
「新規上場申請のための有価証券報告書」を読み解くと、この640億円の内訳は、200億円程度が買収時の借入の返済に当てられ、残額440億円がオーシャン・ホールディングス株式会社への配当や自己株式の取得に充てられたと推測されます。
目論見書からオリオンビールの買収を分析すると、以下のようなことが起きていたと考えられます。
(1)酒税軽減措置により53年間で総額900億円を得て内部留保を高め、純資産は576億円、不動産売却益を含めると700億円を超え、沖縄の企業の財務体質としては稀に見るような恵まれた経営を行なっていた。
沖縄県民が育て、公共性の高いオリオンビールが570億円で県外投資家に売却されたことは、資本原理からしても法的にもまったく問題はありませんが、沖縄の製造業のリーディングカンパニーとして900億円もの酒税軽減措置を受けてきたことを考えると、県民の一人としては非常に納得しがたい思いがあります。
(2)370億円の銀行借入のうち200億円はオリオンビールが保有していた現金や不動産の売却収入により返済し、残り160億円は上場時点でも借金として残存することになった。
上場後の事業収入が返済原資となること、また同債務においてオリオンビールの名護工場と残存する不動産が担保となっていることは、今後の経営の負担になることは間違いありません。
(3)野村證券とカーライルは200億円の出資に対し、すでに440億円を回収済みであり、今後の上場による売却益で、さらなる現金収入を得ることになる。
新たに株主になる投資家にとって当てにできるものは、事業収入しかありません。
本業のビール事業は、低成長・競争の激化に加え酒税軽減措置の廃止によって、大幅な売り上げ増が安易に想像できるものではありません。
不動産等の余剰資産は配当や自己株式取得のために既に売却されており、大規模配当を行ってきたことで本業のビール事業に対する設備投資に余力がないと考えられます。
つまり、本業のビール事業の拡大を図るための資金が配当に回ったことで、成長戦略をつくることが難しくなったと分析します。
(4)今回の上場では株の新規発行を行わないことから、成長投資に充当する株主資本を集めることをしない。
新たな資金を集めることを意図した上場ではないということが明確であります。
一般的に上場とは、市場から新たな資金を集め、それを会社の成長分野に投資していくものであります。
今回はそのことが全く行われないということを見ると、「今回の上場のミッションは何だったのか?」という疑問を持たざるを得ません。
オリオンビールは今、生え抜きの社員が取締役に登用されることがなく、沖縄県出身の取締役がいないということからしても、「地元沖縄の企業」の称号の価値を保っているかが問われています。
また、酒税軽減措置によって900億円を得てきたオリオンビールですが、あと2年間酒税軽減措置が継続されることについて、政府は見直す必要があるのではないかということも指摘したいと思います。
上場を控え、オリオンビール株の勧誘が動き始めています。
「仮条件は2025年9月8日に決定予定」であり、「ブックビルディング(需要申告)期間が2025年9月9日から2025年9月12日まで」、「申込期間は2025年9月17日から2025年9月22日まで」となり、「2025年9月25日が上場日」とされています。
沖縄県内では野村證券が主体となって県内大手企業向けに盛んに勧誘が行われていることが、私の耳にも届きます。
野村證券はオリオンビールの大株主の関連会社ですから、野村グループ全体として利益相反的な取引ではないかという指摘があります。
売り出しをする株主としてはできるだけ高い株価で上場させたいと考えるのが一般的ですが、その中で野村證券が投資家に対して適切かつ適正な案内をできるのか、ということです。
目論見書によれば、売出想定価格は一株770円、発行済株式総数40,813,400株を掛けると314億円、つまり570億円で買収された会社が約半分の企業価値で上場するということになり、一般的な上場ではないという指摘がそこにあります。
また、大方の資産は売却済みで、原則として事業の収益性により評価されることとなります。
しかしながら、オリオンビールが2025年8月21日に公表した業績予想では2026年3月期の当期純利益は33億円ですが、これには継続性のない不動産売却益が含まれており、本業から生じる利益は約26億円と見られています。
オリオンビールの一株あたりの利益に対する株価の倍率を示す株価収益率(PER)を見ると12倍であり、アサヒビールが約15倍から16倍であることからすると、割高であるとは言えません。
しかしながら、オリオンビールは現在15%の酒税軽減措置を受けており、2年後には廃止されますので、その影響額を10億円と見積もると、本質的な利益の額は16億円となります。
この場合のPERは19.6倍となり、酒税軽減措置の廃止による利益の影響額の試算を具体的に示すことなく、措置が継続する期間の業績予想のみを投資家に開示・説明することは、果たしてフェアな勧誘だと言えるのでしょうか。
「非常に複雑でわかりにくい買収」、「はっきりと示されないまま投資家へ移転された内部留保」、「事業リスクを増加させ未来への投資余力を奪うことになる配当」、「自己株取得を目的とした借入」、「不親切な業績予想」など、いくつもの重要な検討事項が不明瞭なまま、リスクが新たな株主へ移転されようとしていることを、私は心配しています。
数少ない沖縄県発の上場企業として応援したい気持ちは強くある一方で、酒税軽減措置の最大受益者であるオリオンビールのこれまでのコーポレートガバナンス(企業統治)のあり方は、「沖縄の酒類製造業の自立的経営」を担う存在としての公正さを欠いているのではないでしょうか。
とはいえ、県民がオリオンビール株を購入することは個人の意思に委ねられるものであり、付き合いで株式を購入する方もいるでしょう。
私は決してそのことを論議の対象としているわけではありませんが、オリオンビールの創業の位置付けからして、すべてが投資ファンドへの配当等の株主還元とされることが納得できないのです。
私は、沖縄県がある一定のオリオンビール株を保有し、上場後、経営状態を見ながら株を売却し、その売却益を、沖縄県民がいま悩み苦しんでいる「子どもの貧困」「障がい者支援」「発達障害の学童問題」などの弱い立場の皆さんを守るための財源に充てることが、健全な上場のあり方ではないかと考えています。
酒税軽減措置で900億円という恩恵を受けたオリオンビールですから、今回の上場で県内大手企業に絞ってIPO株式を優先的に割り当てることはいかがなものでしょうか。
沖縄県民の代表である沖縄県知事は、オリオンビールの上場が過度に投資家の立場を優先するのではなく、オリオンビールの歴史的背景、法的な根拠に基づいて「県民への還元」を考えるべきです。
■ 最後に・・・
沖縄にはまだ眠っている可能性が数多くあります。
課題は確かに大きい。
しかし、その分だけ未来を変える余地もまた大きいのです。
私は、沖縄ファースト政策研究所の所長として、その可能性を信じています。
皆さまと共に、沖縄の未来を創り上げていきたい。
これから毎週、このメルマガ「ミキオの目」を通じて沖縄の「今」と「これから」を発信してまいります。
ぜひ引き続きお読みいただき、共に議論を深めていきましょう。
今日も沖縄から、新しい未来を考えていきましょう。
株式会社 沖縄ファースト政策研究所
所長 下地 幹郎


