<第16号>なぜ、利上げしても円安は止まらなかったのか
今回、日本銀行が利上げを実施したにもかかわらず円安が加速したという事実は、金融政策における「金利を上げれば通貨高になる」という日銀の読みが、市場において完全に機能しなかったことを明確に示したと言えるでしょう。
市場が反応したのは「利上げを行った」という形式的な事実ではなく、その内容が本格的な金融引き締めと呼べるものなのか、すなわち利上げの規模や今後の継続性に対する疑念でした。
今回の利上げは極めて限定的であり、実質的には長年続いてきた金融緩和の枠組みを維持したままの、象徴的な修正にとどまったと市場は受け止めています。
日米、日欧の金利差は依然として大きく、国際資本の視点から見れば、日本円を保有する魅力はほとんど改善していません。
その結果、市場では「日本の金利は当面、大きく引き上げられることはない」という見通しが強まり、円は買われるどころか、むしろ売られる方向に動いたのです。
さらに、日本の物価高の本質を冷静に見極める必要があります。
現在の物価上昇は、国内需要の過熱や賃金の持続的上昇によって引き起こされているものではありません。
その多くは、円安による輸入物価の上昇や、エネルギー・食料価格の高騰といった、いわゆるコストプッシュ型のインフレです。
このような構造のもとで、金利を引き上げることによって円安を是正し、輸入物価を抑え、結果として物価高を抑制するという日銀の戦略は、残念ながら十分な成果を上げることができませんでした。
むしろその影響は、国内の実体経済、とりわけ中小零細企業や一般家庭に対して、負担として現れ始めています。
需要が弱く、実質賃金も伸び悩む状況の中で利上げを行えば、住宅ローンを抱える家計の返済負担は増し、資金調達に余裕のない中小企業の経営環境は一層厳しくなります。
このような状況下で、日銀が継続的かつ大胆な利上げに踏み切ることが困難であることは、市場にも見透かされていました。
結果として、今回の利上げは物価高を抑制するどころか、円安を止められず、国民生活を守る効果を持ち得なかったと言わざるを得ません。
日本の金融政策は、「利上げを控えれば円安と輸入インフレが続く」「だからといって無理に利上げをすれば景気を冷やす」という、深刻な構造的ジレンマを抱えています。
しかし、物価高抑制を目的として、リスクの大きい利上げを強行する判断は、結果的に中小零細企業や生活者にしわ寄せをもたらす可能性が高く、取るべき選択ではなかったと考えます。
私はこれまでも、物価高の局面での利上げは、中小零細企業にとって明確なマイナス要因になると強く指摘してきました。
無理な利上げは、景気後退や金融不安を招く危険性をはらんでいるのです。
このように見ると、日銀の金融政策運営は中途半端なものとなっており、金利政策だけで円安を是正し、物価高を解決しようとすること自体に限界があることが明らかです。
その副作用は大きく、持続可能な解決策とは言えません。
本質的な課題は、物価高の要因である円安を止めるために、日本経済そのものの体質をどう強化するかという点にあります。
賃金が持続的に上昇し、内需が安定的に拡大する経済構造を構築することが理想ではありますが、官僚的に想定されがちな「賃金上昇→消費拡大」という単純な循環は、現実にはそう容易に実現できるものではありません。
特に中小零細企業にとって、賃金の継続的引き上げは極めて困難です。
だからこそ、私が提案しているのは、規制緩和の徹底によって民間投資を拡大し、金利を下げ、金融の枠を広げ、さらに消費税減税によって国民の消費を直接的に活性化させるという政策の組み合わせです。
これにより、過度な財政出動に頼ることなく、財政規律を守りながら国内経済を民間活力によって底上げすることが可能になります。
その結果として円高に誘導され、物価高の大きな要因である円安を抑えることができるはずです。
国内経済を民間主導で活性化させる道があるにもかかわらず、なぜ政府はその選択を取らないのか。
この点こそ、今後、真剣に議論されるべき課題であると考えます。
株式会社 沖縄ファースト政策研究所
所長 下地 幹郎


