<第35号>平心静気、徳譲為政、不撓不屈 「つむぎ」再出発への決意

「平心静気(へいしんせいき)」

「徳譲為政(とくじょうまつりごとをなす)」

「不撓不屈(ふとうふくつ)」

私はサインを求められたとき、この三つの四字熟語の中から一つを選んで書き添えます。

「平心静気」は、物事を判断する時、冷静な平常心で決断しなければならないという意味です。

大きな課題や問題があればあるほど冷静に対処する姿勢が必要だという戒めの言葉です。

つまり、いかに平常心が大事かということを表しています。

「徳譲為政」は、政治や経済でトップを歩む者は常日頃から小さな徳を積んでいかなければならないという意味です。

その道のリーダーは徳の積み重ねがあってこそ役割を果たすことができる、つまり、徳を積むことへの強い思いや考え方を持ち、行動しなければいけないということを表しています。

「不撓不屈」は、どんなに苦しい状況や困難に直面しても諦めないという意味です。

難題を抱えたら、まず一歩、前に踏み出し、その困難を必ず乗り越えるという精神を表しています。

「平心静気」で、冷静に物事を判断したか。

「徳譲為政」で、人のため、社会のために尽くしてきたか。

絶対に何事も諦めることなくやり抜くという「不撓不屈」の強い意志を持っているか。

私のこれまでの人生は、すべてにおいてこの考え方で行動してきました。

久米島オーシャンジェットのジェットフォイル(高速船)も、この三つの考え方に通じる理念があったからこそ、私は就航を決断したのです。

「このプロジェクトは、地域のためになるのか」

「このプロジェクトは、会社が徳を積むことになるのか」

「このプロジェクトは、いかなる状況でも前に進むことができるのか」

平心静気、徳譲為政、不撓不屈の三つの言葉は、私の「宝物」であり「エネルギー」であり、「心の支え」でもあると言えます。

会社設立から3年間、苦労に苦労を重ねてきたジェットフォイル「つむぎ」が、5月1日に初出航を迎えました。

本当に本当に嬉しくてたまらず、心から感謝の気持ちでいっぱいでした。

佐賀県にある造船所での厳しい厳しい修理の時期があっただけに、嬉しさは宇宙を超えるほどのものでした。

しかし、神様は下地幹郎に新たな厳しい課題を与えました。

あまりの嬉しさから、5月1日に祝杯をあげたにもかかわらず、運航2日目にして「つむぎ」が海底との接触事故を起こしたとの一報が届き、まさに天国から地獄へ突き落とされたような思いでした。

27人の乗客の皆さんに怪我がなく無事に下船されたことが、何よりの救いでした。

27人の皆様には翌日、私が直接電話をさせていただき、体調を確認し、皆さん元気でいらっしゃいましたので安心しました。

また、「つむぎ」への乗船を楽しみにして下さっていた皆様にも、運休でご迷惑をおかけしてしまい、重ねて、心からお詫びを申し上げる次第です。

乗客の皆さんの安否を案じる一方、「船の損傷が激しければ再起できないかもしれない」という危機的な思いが、私の中にありました。

会社はもうだめかもしれないという難題に直面した私は、「平心静気」の下、自らを落ち着かせ、これまで訓練してきた事故対応マニュアルを実行に移しました。

事故後速やかに海上保安庁、総合事務局運輸部へ報告し、1時間後には報道関係者への連絡を済ませ、5時間後には記者会見を開き、当時判明していた全ての情報をお伝えしました。

船体の損傷状況がはっきりしていなかった記者会見の最中にも、「会社はもうだめかもしれない」という不安が何度も頭をよぎりました。

どうすればこの接触事故を乗り越えることができるのか。

「平心静気」の心に戻って冷静に考え続けました。

久米島オーシャンジェットのプロジェクトは、「久米島の人口減少に歯止めをかける」「本部の交通渋滞を解消する」という素晴らしいミッションを持っている。

だから、「徳譲為政」の考え方で必ず道は開けるはずだ。

そう信じるしかありませんでした。

自分自身を信じたら、あとは行動に移すしかありません。

いかなる状況に陥っても、「不撓不屈」の精神で乗り切ろう。

社員全員で、そのことを確認したのです。

船体の損傷はありませんでしたが、衝撃吸収装置(車のエアバッグのようなもの)が正常に作動していたことから、作動した衝撃吸収装置を交換する必要があることがわかりました。

交換する衝撃吸収装置を即座に調達し、修理方法を全員で確認し合い、工程表をつくって、私たちは動きました。

船は久米島の港にありましたので、事故の翌日(3日)、私が久米島へ行き、修理方法について会社の方針を説明し、4日には調達したすべての部品を携えた技術メンバー5人が久米島へ赴きました。

久米島では島の皆様のサポートの下、修理作業に必要な櫓を設置し、4日午後から修理を始めました。

那覇にいた私は毎日、電話で報告を聞くと同時に、社員へ感謝とねぎらいを伝え、あとは修理の結果を待つばかりでした。

修理が始まってからの2日間は、寝ているのか寝ていないのか分からないほどの状況で、夜中突然目覚め、枕は汗と涙でびっしょり濡れていた、そんな状態でした。

私の期待を超える社員の頑張りで、部品の交換は6日までに無事に終わり、7日には国の検査を受ける体制が整いました。

事故からわずか4日間で修理が完了したことは、まさに奇跡としか言いようがありません。

一方、那覇にある本社では、お詫びなどお客様への対応、事故原因の特定とそれに伴う再発防止策の策定など、この教訓を生かすべくより強固な安全運航への取り組み作業が続いていました。

この奇跡の裏側には、必死に頑張った社員がいることを私は知っています。

社員全員を、私は心から誇りに思っています。

船の検査に合格してからは、運航再開に向けて記者会見を開いたほか、旅行会社の皆さんにも連絡をし、ホームページでも報告するなど、次のチャレンジに進みました。

9日の運航再開以降、今日で4日目。

今の私たちのミッションは、「安全に運航できる『つむぎ』の姿を見ていただく」こと。

事故で信頼を失ってしまった現在、乗客はまだ多くはありません。

毎日着実に、安全運航できる姿を示すことで、失われた信頼を取り戻さなければならないと考えています。

多くのお客さまを乗せて運ぶのは、次のステップです。

「今はまだお客様は少ない、それでいい。焦る事なく丁寧に運航し、一人ひとりの乗客の皆さんに『つむぎに乗ってよかった』と言ってもらえるようにしよう」

社員みんなで、このことを確認しあっています。

この事業は、久米島と本部のため、長く続けていくことが大事です。

焦らず、急がず、目先の結果を求めすぎず、安全運航を追求し、観光シーズンを見据えた6月以降につなげていきたいと思っています。

「つむぎ」の良さは、波に強く、雨に強いこと。

海面から浮き上がって走るため、他の船が欠航するほどの波の高さでも快適に走ることができます。

安全運航を最優先し、ジェットフォイルの良さを十二分に発揮してまいります。

「平心静気」「徳譲為政」「不撓不屈」この三つの言葉は、天国に近づくような期待が見えるときにも、地獄のような苦しみから抜け出すときにも、私にとって必要な言葉です。

人は、さまざまな喜びや苦しみに遭遇することで、奥深くもなり、幅広くもなります。

いま私たちに問われているのは、困難に直面して下を向くのではなく、前を向いてこの経験を生かすこと。

安全安心という原点に立ち返り、新たなスタートを切ります。

株式会社 沖縄ファースト政策研究所
所長    下地 幹郎